【開発者インタビュー】使い手によって可能性が広がる「コモド」

【開発者インタビュー】使い手によって可能性が広がる「コモド」

ULYSSESの定番財布「コモド」。カメラ周りの小物から始まったULYSSESが、初めて財布の開発に取り組んだきっかけとは?コモド開発の背景やこだわりのポイントをエンゾー店長にインタビューしました。

開発のきっかけ

―ユリシーズと言えばカメラグッズのブランドだと認識している人が多いと思うのですが、財布を作ろうと思ったきっかけは?

最初から「財布をやりたい!」という強い動機があったわけではないんです。
財布の市場では、2014年前後くらいの時期に、それまでなかった「極端に中身が入らない、極薄もしくは極小の財布」という新しいムーブメントが起こりました。それまでにも「小型の財布」というジャンルはあったんですが、それ以前と大きく違ったのは、「物を抱え込むことから自由になる生活をしたら、財布はどういう形になるか?」というコンセプトのもとに作られたものだった点です。ちょうど世の中がミニマル志向へと急激に傾き始めた時期だったので、大きなムーブメントが起こりました。その流れは今でも続いています。

その頃、自分も分厚い折財布を卒業したかったので、流行りに乗って、小さかったり薄かったりする財布を片っ端から試したんですが、いくつ買っても、しっくり来ませんでした。

―流行りに乗って(笑)。しっくり来なかったポイントは?

ミニマル系の財布は、大体どれも「カードの枚数は3~5枚に抑えなさい」と促すものが多いんですが。僕のライフスタイルだと、そんなにカードを減らせなかったんですよね。
例えば、鉄道網が発達している大都市だと免許証はいらないけど、福岡のような地方では車は必要です。これに、健康保険証や頻繁に行く病院の診察券、会社のカードキーや交通系カード、クレジットカードや銀行のキャッシュカードなどを入れていると6、7枚は簡単に突破します。結果、僕が生活する上で必要な枚数のカードを収納しきれませんでした。

で、こういった断捨離系の財布を買った人たちは、ほんとにみんな使いこなせているのかな?と思って調べてみたら、「身も心も軽くなって大満足です!財布から溢れ出たカードは、別途、カードケースを買って持ち歩くことにしました!」とレビューしている人がチラホラいて。なんだよ、ものが増えてるじゃん、と(笑)。自分以外にも「3枚に減らすの無理」って人がいることを知りました。

他にも、小さすぎる財布は小銭やお札の出し入れが不便だったりして、普通サイズの財布と比較して使い心地が良くありませんでした。お金やカードの出し入れは毎日のことなので、それが不便だと、解消されない小さなストレスが雪のように降り積もっていくんです。

そこで、「入れたいものが全部入るのに薄くて小さい」かつ「使い心地を犠牲にしない」という、ふたつのテーマを掲げ、それをクリアする財布を作ろうと思いました。いくつか方法を考えた末、雛形として候補に残ったのは、Lジップ財布でした。

―昔ながらのLジップ財布のいいところと改善したいところはどこだったんでしょう?

いいところは、構造がシンプルでありながら、「革小物としての満足感が得られること」です。ミニマル系の財布は「モノを所有することからの開放」がテーマなので、所有欲を満たすようなことはあまり重視していません。良い悪いの話ではなく、求めるものの違いです。
ユリシーズでは、一貫して「あたらしい・なつかしい・ここちいい」というコンセプトを
大切にしてきたので、レガシーなLジップ財布のフォルムや質感が持っている「革製品としての温かみ」のようなものが、アイデアのベースとしてしっくり来ると感じました。


一方で、古いものなので問題もあります。1つは、大きく開かないところです。レガシーなLジップ財布は、ヒップポケットに無造作に突っ込める薄さを優先するため、マチが設けられていないことが普通でした。だからただでさえ開きにくいのですが、その上、カード収納ポケットにカードを差し込むと、両サイドが硬い板のようになってしまうため、ますます開きにくい構造になっていました。

また、コインスペースが深いので、たとえば車に乗っていて夜間に駐車場から出るとき、精算機の横で小銭を探ろうとしても、ポケットの底に沈んだ硬貨は暗くて種類の見分けがつかず、いったん手のひらに全部出して選ばなければならなかったりして。財布を薄く仕上げることと引き換えに犠牲になっている使い勝手の部分が大きすぎると感じました。

初の財布開発に苦戦

―作り始めてどうでしたか?

まず最初に、紙で作ってみたら簡単にできたんです。意外と最初からうまくいったので、これを革に置き換えればすぐに完成だと、甘く考えていました。

―実際はそうじゃなかったんですね

はい。大変だったのは、コモドの大きな特徴である、浅いコインスペースです。紙で作るとキレイな笹舟型にできるのに、それを生地に置き換えると、ひどくシワが寄ってしまい、コインの転がりが悪くなりました。

コモドはせっかくコインの視認性と取り出しやすさを考慮して浅いコインスペースにしているので、コインもきれいに並んでほしいわけです。何度もシワの原因の仮説を立て、工場の名人にもアイデアを出してもらって…。

結局、100%完璧には解決できないまま、とりあえず商品化しました。本当の原因に気づけたのは、発売してから1年後くらいです。

コモドのこだわり

形でこだわったポイントは?

使い心地の面では、マチが広がるようにWマチにしました。財布の右と左の部屋それぞれにマチができて、がばっと大きく開くので見晴らしはよく、カードやお札の出し入れもしやすくなります。 また、シンメトリーなフォルムにもこだわって、ジップが大きく回り込むような意匠にしました。この形状も、開口部が大きく開くことに貢献しています。

―革選びはいかがでしたか?

一番最初は、バダラッシ・カルロのナッパという上質で柔らかい革から始めました。カードをたくさん入れてパンパンになっても、外側がゆるく変形してうまく吸収してくれるので財布が膨らまず分厚くなりません。手触りもよく、使い心地も良いものになりました。

ところが、長く使い続けると革が柔らかくなりすぎて、カードの形状が割とはっきり表に響くという弱点が見えてきました。そこで、もう少し表に響きにくい素材を探して、何度か革の種類を変え、最終的に英国のブライドルレザーを使ってみたところ評判が良かったので、現在では定番化しています。

―ジップ選びにも苦労したとか

2017年のデビュー当時は、樹脂でできたコイルファスナーを使っていました。普通、革製品に組み合わせるジップといえば、業界では金属ファスナーがお約束なんですが、心地よさを最優先にした結果、あえて滑らかさで勝るコイルファスナーからスタートしました。

なぜ“お約束”より、滑らかさを重視したんですか?

革製品を作る上で見栄えを良くしたいという「欲」はあったのですが、それでも滑らかさが勝ったのは、小さなストレスが積み重なっていくことが嫌だったんです。

例えば、お札が金属ジップにひっかかった経験は、だれでも1度はあるんじゃないでしょうか。お札が傷ついていくことや、自分が傷つけたお札を支払いのときに誰かに渡すことに、チクチクと心が痛みました。できるだけきれいにお札を使ってバトンタッチすることは、相手への心地よさを考えて先回りする、気遣いだと思うんです。

その後、金属ファスナーに変えた理由は?

実はあとから、動きが渋くならない金属ファスナーを見つけました。また、お札の枚数が規定枚数に収まっていれば、金属ジップでもお札が引っかかることなく使えることが実験で分かって。

ところが、選んだ金属ジップは耐久性が低く、ファスナーの正解はどれなのかと、数年に渡って悩みました。今のジップに辿りつくまで、4回ぐらい変えましたが、この話を始めるとものすごく長くなるので(笑)、それはまた別の機会にお話できればと思います。

使い方の柔軟性

―コモドのULYSSESらしさはどこにあると思いますか

使い方の決まりが「ゆるい」ところでしょうか。例えば、どこにカードを入れてどこにお札を入れるという明確なルールがないんです。いちおう僕としては、カードを左右に半分ずつ分けて入れて、お札は真ん中のしきりに沿わせ、ゆるくふたつ折りに曲げて入れる使い方を推奨しています。
でも、実際にコモドを使っている方に話を伺うと、片方の部屋にピシッと折ってたお札を入れて、反対の部屋にカードを全部入れている人も(かなり)います。一番いい使い方はお客さんによって違うんです。使い方の創意工夫を受け入れる柔軟性のある財布がコモドだと思っています。

―使い手の好きなように使える財布なのですね

実は、リコーさんがネット上で公開されている「GR STORY」という、GRの哲学を語った動画で、同じような話がありました。GRのコンセプトの1つに「GRは使い手の知性を信じている」というフレーズがあったんです。
GRはスナップシューターのためのカメラで、トップクラスに高性能というわけではないけど、スナップカメラの最小限を備えています。あとは創意工夫で使いこなすだけ。その知恵を、GRのファンであれば持っているんだと、開発者側が確信しているんです。作り手が、懐の深いツールを用意しさえすれば、使い手は創意工夫をして楽しむ準備ができている。そんなコンセプトでした。

僕がコモドの使い手に期待したことと重なっていて、鳥肌が立つくらい共感しました。7割くらいはULYSSESが考えるけれど、そこから先はお客様が好き勝手に考えてくれる。コモドに限らず、使い方が1つに決まりきった道具ではないものを、これからも提案して行きたいと思っています。

【編集後記】

発売後もより使いやすくなるように改良を続けながら今の形に進化してきたコモド。製品そのものの工夫に加えて、使い手のアイデア次第でも生活が快適になる財布です。皆さまのベストな使い方を見つけてみてください!

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