旅のお供「 Kaweco (カヴェコ)」
ユリシーズがクラレと共同開発した、旅行や出張でバックパックと併用することを念頭に置いたボディバッグ「チェスポック」には、メイン気室の蓋の裏に、とても小さな隠しポケットがついている。ポケットと言うにはあまりにもスペースが狭いので、使い道に困る方も多いのではないかと想像するが、この実装には、ごく個人的な理由があった。
僕は何事においても「抜かりなく準備する」のがとても苦手で、海外へ飛ぶ飛行機の中でイミグレーション用の書類を配られた時、何度も(あっ!ペンがない)という事態に直面し、その度に隣りに座っている見ず知らずの外国人に「Excuse me…」と言ってペンを借りる羽目になった。
これに懲りたので、ペンを入れっぱなしにしておける場所をチェスポックに設けたのだ。
とはいえ、本体サイズの関係でポケットが小さすぎ、ごく一般的な長さのボールペンは入らない。そこで、短尺のペンで何か良いのがないか物色し始めたところ、目に止まったのが「 Kaweco (カヴェコ) 」の「Sport Lux」というシリーズのペンだった。
全長わずか11cmと超短尺で、かつ、コロンと太いルックスが可愛らしい。クリップもついているので、狭くて滑りやすい機内のテーブルの上に置いても、僅かな機体の傾きでコロコロと転がり落ちてしまうことがない。
しかも、このペンはノック式ではなく、軸の頭を回すと芯がニョキッと顔を出す「回転繰り出し式」だった。カヴェコにはノック式のモデルもあって、そちらの方が主流なのだが、ノック式の宿命である「本体とヘッド部の段差」が回転繰り出し式にはなく、一体感のあるフォルムになっている。ノックしないので、芯の出し入れも無音だ。こういうちょっとした品の良さのようなものが、モノ好きの所有欲を刺激する。
だが、ことはそう簡単には進まなかった。
いざ狙いを定めて買おうとしたところ、どこにも売ってない。文具屋という文具屋を片っ端から調べたけれど、全て売り切れ。正確には、Amazonにだけ在庫があるのは突き止めていたが、ちょっと気軽に買えるお値段ではなかったことから、手を出しあぐねていた。
散々迷った挙げ句、数カ月後のある日(2021年4月)、とうとう購入する決心をし、Amazonの「欲しいものリスト」を開くと…なくなっていた。その時になってようやく気づいたのだが、実はLuxeはとっくに廃番となっており、最後の流通在庫が、あのAmazonのものだったのだ。ガッデム!なんてこった!
半年前に戻れるのであれば、自分の腕を掴んでマウスを握らせ、無理矢理にでも購入ボタンをクリックさせたかったが、すべては後の祭り。
仕方なく、常時ラインナップされているノック式のカヴェコを買い、別売りのクリップまでつけて自分を慰めた。
時は流れて2024年1月。
チェスポックを改良したいという思いが強くなり、具体的に構想を練り始めたのと時を同じくして、ふと、「あのポケットに入れるはずだったペン」のことを思い出した。
もはや4年も前にディスコンになった製品であるから、いまさら同しようもない。どうしようもないのであるが、出来心で「Kaweco Sport Lux」と入力してググってみた。
…あった。遠く離れたギリシャの文具店に、デッドストックがあるではないか。
こうして3年越しの恋が実り、僕のチェスポックの中には、太くて短いカヴェコが出番を待つことになった。
【エンゾーのモノ語り】気まぐれ更新中
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