【妄想】今だからこそ、作りたいカメラがある。BESSA R2A Digital

【クラウドファンディングだから出来ること】

店長エンゾーです。

最近、ロモグラフィーさんがまた、ペッツバールのレンズを作るプロジェクトをクラウドファンディングサイトで展開し、アメリカと日本で大成功を収めましたね。合計すると、日本円にしておよそ1億3000万円ほど資金調達したことになります。

Kickstarterの事例

CAMPFIREの事例

かなり尖った描写で癖が強く、使い勝手も決して良くはないこのレンズですが、逆にそこが魅力と感じるユーザーが多かったということでしょう。まさしく、「ツボにはまった人は万難を排してでも欲しい、興味が無い人はピクリとも食指が動かない」という、好き嫌いがはっきり分かれるプロダクトではないかと。

ただ、もしこのプロジェクトが10年前に計画されたものだったとしたら、おそらくペッツバールレンズの復刻は、うまくいかなかったのではないでしょうか。こういう「面白いけれど、何人の人が欲しいか作ってみるまで分からない」というような製品は、以前ならリスクが高すぎて、そう簡単には作れませんでした。クラウドファンディングという仕組みは、チャレンジングな商品開発にこそ威力を発揮するすばらしい仕組みだと思います。

ところで。

エンゾーには、以前から切望してやまない「理想的なカメラのカタチ」があります。アナクロすぎて笑われるかもしれませんが・・・それは「巻き上げレバーを備えたデジタルカメラ」です。

【ゆっくりとしたテンポで撮るカメラ】

かつてエンゾーが初代EOS Kissでカメラを覚えた頃、すでにフィルムの巻き上げはオートで行われ、巻き上げレバーを備えたカメラは、ごく一部を除き、中古でしか手に入りませんでした。その数少ない「新品で買えるアナログカメラ」の一つが、コシナから発売されていた「BESSA」です。銀塩の時代に終わりが見え始めた頃に現れた超メカニカルなフィルムカメラであり、自分も含め、このカメラでレンジファインダーの面白さを知ったというユーザーは、少なくなかったはずです。
ライカは高価すぎて手が出ない、でも古い時代のLマウントやMマウントのレンズを、現代のカメラで安心して使いたいというニッチなニーズに、BESSAはピンポイントで応え、BESSA T、BESSA R、BESSA R3Aなどたくさんの派生モデルが誕生しました。

実はユリシーズでも、ごく初期の頃に、職人さんにお願いしてBESSA用のボディスーツを開発していたことがあります。グリップ部にスタッズを使うなど、実験的な要素が多かった製品ですが、当時BESSA R2Aを愛用していて個人的に欲しかったので、ほとんど私利私欲のために作ったようなものでした。

そんな中、エプソンがコシナと共同で開発し、彗星の如く現れたのが、デジタル版レンジファインダー「R-D1」シリーズです。


(R-D1シリーズの最終形、R-D1xG)

APS-Cサイズのセンサーを搭載し、背面にバリアングルモニターを備えるれっきとしたデジタルカメラでありながら、その他の部分はBESSA R2の仕様を受け継ぎ、シャッターをチャージするための巻き上げレバーがあり、等倍の測距窓でピントを合わせるという、レンジファインダーカメラでもありました。
一枚ごとにレバーを巻き上げてマニュアルでピントを合わせるという「お作法」は、スローなテンポでじっくりと被写体と向き合うことにつながり、心地良い緊張感をもたらしてくれます。後にも先にも、このようなコンセプトのカメラはなく、未だに現役で使っているファンもいるという名機です。

一方で、R-D1が発表された当時から、エンゾーには個人的に残念だった点が3つありました。ひとつは、センサーや画像処理エンジンの性能が、まだまだ発展途上であったこと。ふたつめは、センサーサイズがフルサイズではなかったため、レンジファインダー用のレンズの画角や個性が100%は活かせない仕様であったこと。そして3つ目は、デザインのベースとなったボディが、当時の最新機種であるBESSA R2Aではなく、一世代前のBESSA R2であったことです。

一言で言えば、R-D1はいろいろな意味で「早すぎたカメラ」でした。

現在、一眼レフやミラーレス界隈では、あえて画素数を低く抑えてノイズ耐性を高めることに特化したモデルが、高画素モデルと併売されるようになり、画素数至上主義も薄れてきつつあります。これは、センサーや画像処理エンジンの性能が十二分に向上し、すでに普通の使い方をする限りではほとんど不満がなくなったことや、性能向上のスピードそのものが鈍化していることに起因します。

もし、R-D1のようなコンセプトのカメラが、今の技術で復活したならば。もし、センサーサイズがフルサイズなら。そんな妄想が、今でも頭をよぎります。

【今だからこそ、もう一度】

現在、コシナはVRマウントのレンズこそ散発的にリリースしていますが、カメラ本体は、ツァイス・イコンを最後に開発をやめてしまったように見えます。これは、コシナのレンジファインダーにお世話になったファンのひとりとして、非常に残念な限りです。

今なら、まだ「巻き上げレバーを実際に使ったことがあるユーザー」が現役で写真を撮っています。あのゆっくりとした撮影テンポの心地よさを、身を持って知っている世代が残っているわけです。同時に、今ならまだ、アナログカメラの生産技術が生き残っているはずです。
大量に撮って大量に削除するという今風の撮影スタイルの中で、あえて「丁寧に撮れるカメラ」がひとつくらいあっても、面白いんじゃないでしょうか。

そんなわけで、エンゾーは今日も、BESSA R2Aをベースにした、フルサイズのデジタルレンジファインダーカメラをクラウドファンディングで作れないかなあと、そんな妄想を頭に思い描いていたりするのでした。

5件のコメント

  1. 私もエンゾーさんと同じ気持ちですね。
    実際、R-D1xGとBESSA R2Mをこの前まで所有してたんですが諸事情あって手放してしまいました。
    …ですがやっぱりフィルムカメラのあの操作感だったりシャッターを切った時の心地良さが忘れられずR2Mを最近買い直しました^^;
    …フィルムがブームにでもなればなぁなんて安易な考えをしてたりしますねぇ^^;

  2. R.Sさん
    メカニカルでアナログなカメラには、シャッターを切った時の感触、手に取った時の重量や剛性感、操作感に至るまで、おっしゃるとおり「心地よさ」というキーワードがたくさん内包されていると思います。
    デジカメが「頭脳」だとすれは、メカニカルカメラは「筋肉」でしょうか(笑)。自分の手や目の延長として「操っている」という実感が強いです。そこが心地よさの源なのかな?とも思います。

  3. エンゾーさん、全く同意見です。僕も以前から巻き上げレバーの付いたデジカメが欲しいなと思っていたんですが、周りのカメラ好きには全く共感を得られず、かなりの少意見なんだろうと思っていたので、エンゾーさんが同じような「妄想」を お持ちなのを拝見して少々驚き、また嬉しくなってコメントしてしまいます。手でフィルムを巻き上げる行為は、次の1コマをどう撮ろうかと一瞬考えを巡らせるのに調度良い撮影のテンポ作りだった気がするんです。そういうこともあってR-D1sを今でも時々使っています。R-D1もD1sまでは背面の液晶画面を裏返して見えないようにできる為、写真を撮った後に1枚毎に液晶を確認するというデジカメならではの行為からも開放されて、あたかもLeica M Edition 60のようにシンプルな撮影スタイルにすることもできる点も気に入っています(完全に液晶をなくしてしまって、デジカメ的な設定操作からも開放してしまったEdition 60の割り切り方はさすがLeicaだと思いますが)。巻き上げレバーのあるデジカメというとLeica R9+デジタルモジュール(DMR)の組み合わせを思い出すのですが、DMRを付けるとシャッターチャージも電動化されて、せっかくの巻き上げレバーは使えなくなりますから、できればモーターを止めるモードが欲しかった。数年前にニコンから「F」のデジカメ版のようなカメラが出るという噂を聞いた時は、知り合いのニコンの人に、ダメ元で「後藤哲郎さんには巻き上げレバーを付けるようにお願いして下さい」と言ってみたこともありましたが、出てきた「Df」にはやはり巻き上げレバーはありませんでした…(そりゃそうだ)。ただ、現実問題として、ハードウェア関連のクラウドファンディングは無茶苦茶大変みたいですよね。去年話題になったRingとかも苦労してたし、シリコンバレー在住の知り合いでiPad用のキーボードカバーを作った人も大変そうでした。ソニーが最近自社サイトでクラウドファンディングやってますが、大手のメーカーが、本来は自分のお金でやるのが本当なんだけど、社内でも売れるのか売れないのか判断できないようなものは社内プロジェクトでも会社から投資してもらえないのでクラウドファンディングすることで世の中の需要を確認します、という流れがもっとあっても良いと思うので、コシナがこういうことをやってくれればいいんですけどね。それにしてもEpsonでR-D1をやった人は相当マニアックな人だったんだろうなー。

    1. またこうてもうたさん
      そうなんです、これからは、企業もニッチに突っ込んでいく遊び心がないと、面白くないと思うのです。
      そういう時に、マーケティングと資金調達を両方いっぺんにできてしまうクラウドファンディングは、非常に低リスクで有効な手段だと思います。

      それはそうと、巻上げレバーつきのカメラ、ご賛同いただきありがとうございます。コシナは、今や数少ない「精度の良いメカニカルカメラを社内で作れるメーカー」ですので、その技術が過去のものになる前に、もう一度だけ冒険してくれないかなあと思っています(署名集めたいくらいです)。

  4. カメラ歴30年です。
    当初ミノルタの現在よりおよそ50年前の親父の一眼レフを愛用しておりました。
    実は私も全く同じ妄想を只今しておりまして、もしかしたらと思い「巻き上げレバー デジカメ」で検索した結果ここにたどり着きました。

    最近クラシカルな雰囲気に惚れてFUJIFILMのx-t20 を買ったんです。
    さらに50年前の親父が使っていたオールドレンズを取り付けてみたところ、正に見た目はフイルムカメラそのものです。
    絞りリングにマニュアルフォーカス、そしてx-t20 の軍艦ダイヤルは機械好きにはたまりません。
    でも何か違和感が…
    そうです。
    巻き上げレバーがないんです。
    巻けないのがむしろ違和感なんです。

    何でもかんでもボタン1つで全てが完結する世の中になりました。
    情報を手にするのも、またそれを捨てるのもボタン1つ。
    買い物さえもボタン1つで翌日には届く世の中です。
    こんなに便利になったのに、私たちの生活は忙しくなるばかり。
    何時も時間に追われ一向に豊かにはなっていない。
    便利さと短縮がもてはやされる一方で、
    一手間かけて機械と付き合う楽しさを人々は忘れてしまったんでしょうかね。

    オートバイの世界にはヤマハのSRと言うバイクがあります。
    実はこのバイクセルがありません。
    この時代にキックで始動です。
    クランクの位置を微調整して、マークを合わせたらキックペダルに体重を乗せてキックします。
    はっきり言ってこの作業は経験が無い人がおいそれと出来る仕事ではありません。
    しかしSRを愛する人たちはこの作業を儀式と呼ぶそうです。
    私はSRファンではありません。
    でもその感覚には凄く共感します。
    確かにボタン1つで目覚めるエンジンは便利ですが、一手間掛けて目覚めさせるエンジンには不便な豊かさがそこにあります。
    メーカーもあえてキック始動に拘ってセルは付けないと聞いております。
    ボタン1つで終わらせない不便な豊かさをヤマハとSRファン達は知っているのです。

    近年「機械らしさ」「懐かしさ」を主張したカメラが市場でチラホラ見えるので
    巻き上げレバー式の機械らしいデジカメ。
    不便で豊かなデジカメが潜在需要な気がしてなりません。

    以上

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